恋愛もの。

 

 

   1 夕方の電車の車内

 

?           「おいっ!ジェイムズ。」

 

ジェイムズ 「テッド!」

 

テッド   「珍しいな。お前と一緒の電車なんて。」

 

ジェイムズ 「今日は生徒の進路相談があってね。生徒の保護者とも話す必要があって遅くなったんだ。」

 

テッド   「それはまあ、大変だな。」

 

ジェイムズ 「そうでもないさ。大変なのはどこも一緒だろ?」

 

       テッド  「そりゃそうだ。こうして会うのも久しぶりだな。何年ぶりだ?」

 

ジェイムズ 「大学卒業以来だから12年くらいだね。」

 

  テッド 「どうだ?少しは出世したか?」

 

ジェイムズ 「全然。まだまださ。」

 

テッド   「ところでこれ!」

 

    テッド、上着のポケットから何かを取り出す。

 

ジェイムズ 「なんだい?それは?」

 

テッド   「来週ホールで開かれる演奏会のペアチケットだ。お前好きだったろ、こういうの。」

 

ジェイムズ 「そうだね。しばらく忙しくて行けてないけど。」

 

テッド   「たまには彼女とハメを外して楽しんでこいよ。」

 

ジェイムズ 「ありがとう。でも、君はいいのかい?彼女いただろ。」

 

テッド   「ほら、これ。」

 

   テッドが指にはめた結婚指輪を見せる。

 

ジェイムズ 「結婚したのか!?」

 

テッド   「そう。それでうちの嫁は出産間近の妊婦だからいけないんだ。だから貰ってくれ。」

 

ジェイムズ 「ありがとう。・・でも。」

 

テッド   「今は彼女いないのか?それとも片想い?」

    

ジェイムズ    「・・まあね。」

 

テッド   「じゃあ思い切って誘ってみろよ。」

 

ジェイムズ 「あぁ。」

 

 

   2 ロンドン郊外 マンション

 

    部屋から出て3階から階段の下を覗きこむジェイムズ。

 

ジェイムズ 「おっ?」

 

    1階からキャサリンが階段を登って行く。

 

ジェイムズ 「おっと。」

 

    ジェイムズ、服装を整える。

 

キャサリン 「あら、ジェイムズ。」

 

ジェイムズ 「やあ、キャサリン。偶然だね。」

 

キャサリン 「ほんと。私が階段を登っているとなぜかいつもあなたがいるわね。」

 

ジェイムズ 「ほんとに偶然が重なりすぎだよ。・・何か意味でもあるんじゃないかな?」

 

キャサリン 「意味?」

 

ジェイムズ 「いや、なんでもない。偶然が重なることも意外によくあることだからね。」

 

キャサリン 「そうかしら?」

 

ジェイムズ    「・・えっ?」

 

キャサリン 「偶然が重なるってことは、そこに何かしらの意味があるって私は思うわ。」

 

ジェイムズ 「・・その意味って?」

 

キャサリン 「さてね。それじゃあ。」

     

                      階段をさらに登るキャサリン

 

ジェイムズ 「あのさ、キャサリン、これ、よかったら、あっ、行っちゃった・・。」

 

 

   3 その日の夜 ジェイムズの自宅の寝室 電話

 

  テッド 「それでお前、その子を誘えなかったのか?」

 

ジェイムズ 「・・仕方ないだろ。彼女の前だと・・なんかこう、緊張するんだ。」

 

  テッド 「あんまり失敗ばかりしているとそのうち感づかれて気味悪がられるぞ。」

 

ジェイムズ 「よしてくれ!彼女はそんな人じゃないんだ。とても純粋なんだ。影がないというか・・。とにかくそんな人じゃない。」

 

  テッド 「お前相当その子に入れ込んでいるんだな。」

 

ジェイムズ 「・・まあね。」

 

テッド   「お前の恋愛話なんて久しぶりだからな。俺もなんとかしてあげたいところだが。」

 

ジェイムズ 「いいんだ。これは僕1人でやらなければ。」

 

  テッド 「相変わらず真面目だな。まあ、しっかり励めよ。じゃあな。」

 

ジェイムズ 「ああ。」

 

 

     4 翌日 ハイスクール 教室

 

     黒板に文字を書いているジェイムズ。

 

ジェイムズ  「・・それで、この公式の答えなんだけど、わかる人いる?」

 

                生徒、反応なし。

 

ジェイムズ 「それじゃあ、この問題はどうかな?昨日やったところだし、これなら。」

 

               生徒、反応なし。

 

ジェイムズ 「・・はあ。(溜息)

 

   生徒  「ジェイムズ先生。」

 

ジェイムズ 「おっ!じゃあこの問題の答えは何かな?」

 

   生徒 「そのネクタイださい。」

 

ジェイムズ 「なっ!?」

 

      生徒一同笑い。

 

ジェイムズ 「・・本当に?」

 

         生徒  「うん。ほんとに。」

 

ジェイムズ 「そうかな、人から貰ったものなんだけど。」

 

         生徒   「もしかして彼女?」

 

    チャイムの音が鳴る。

 

ジェイムズ 「・・そろそろ時間だから授業はこれで。」

 

        生徒一同   「ええー!」

 

     ジェイムズ、教室から出る。

 

 

    5 教員用男性用トイレ

 

     手洗い場のガラスで自分を見ているジェイムズ。

 

ジェイムズ 「・・はあ。」

 

ティーブ 「ジェイムズ先生、どうされました?ため息なんてついて。」

 

      背後から社会科教師のスティーブが語りかける。

 

ジェイムズ 「なあ、このネクタイ変かな?」

 

ティーブ 「・・うーん、ちょっと。」

 

ジェイムズ 「・・そんなに?」

 

ティーブ 「僕ならもう少しシンプルな色を。」

 

ジェイムズ 「・・ふーん、そうか。」

 

      ジェイムズ、ネクタイを外しそのままネクタイをゴミ箱の中へ。そのまま去って行く。

 

ティーブ 「ちょっと!ジェイムズ先生ー!」

 

     

     6 夜 とあるバー

 

ジェイムズ 「まったく、近頃の子供は。まともに勉強もしないくせにああやって人を侮辱することばかり。これじゃあせっかくの教育もどんどん廃れてしまう。」

 

バーテンダー 「お疲れですか?」

 

ジェイムズ 「そうなんだよ。ほんと教師って仕事はなかなか報われないよ。せっかく生徒が学ぶための授業なのに肝心の生徒は全然話を聞く気がない。」

 

  テッド 「そんなもんだろ。」

 

ジェイムズ 「テッド!」

 

  テッド 「よお。」

 

ジェイムズ 「どうして君が!?」

 

       テッド 「ここのバー、俺も行きつけなんだ。いつものを頼む。」

 

バーテンダー 「かしこまりました。」

 

  テッド  「あれっ?お前ネクタイどうした?」

 

ジェイムズ 「・・・」

 

       テッド 「・・きいちゃまずかったか?」

 

ジェイムズ 「・・生徒にダサいって笑われたから捨てた。」

 

      テッド 「良かったのか?捨てて。」

 

ジェイムズ 「いくら生徒が子供とはいえ、大勢に笑われたんだ。あんな経験はじめてさ。」

 

     テッド 「・・そうか。それで例の彼女とはうまくいったのか?」

 

ジェイムズ 「今日はまだ会えてない。なあ、やはり俺みたいな理屈っぽいのはやはりモテないのかな?」

 

  テッド 「そうでもないさ。モテない医者や弁護士だっているから。」

 

ジェイムズ 「そうかなあ。」

 

  テッド 「まあ、それも個人差あるけどな。あとはルックスかもな。」

 

ジェイムズ 「・・ルックスかあ。」

 

  テッド 「まあ、相手に嫌われてなければ脈はあるかもな。」

 

ジェイムズ 「・・ああ。」

 

    

     7 深夜 マンション

 

ジェイムズ 「・・ふう。」

 

      階段を登っていくジェイムズ。

 

キャサリン 「あら、ジェイムズ。」

 

ジェイムズ 「キャサリン! 珍しいね。君がそこにいるなんて。」

 

キャサリン 「ええ、なぜかいつもはあなたがここにいるのに。」

 

ジェイムズ 「・・いやあ、ははは・・。ところで、こんな時間にお出かけかい?」

 

キャサリン 「ええ、友達からパーティーに誘われているのよ。」

 

ジェイムズ 「こんな時間からかい!?もう遅いしやめておいたほうが。」

 

キャサリン 「ありがとう。でも、友達を待たせているから。それじゃあね。」

 

ジェイムズ 「ちょっと!キャサリン!」

 

キャサリン 「えっ?」

 

ジェイムズ 「いやあ、プロオーケストラ演奏会のチケット、友達から渡されてさ。2枚あるから今度どうかなって?」

 

キャサリン 「あなたと?」

 

ジェイムズ 「・・うーん、まあ嫌でなければ。」

 

?     「おーい、キャサリン!」

 

      階段下の1階から男の声がきこえる。

 

キャサリン 「ごめん、今行くから!それじゃあジェイムズ、ごめんなさい。それじゃ。」

 

ジェイムズ 「ああ、気をつけて!」

 

キャサリン 「ありがとう!」

 

 

      8 電話

 

  テッド 「誘おうとしたけどすでに男がいた!?」

 

ジェイムズ 「うん。キャサリンは友達が待っているって言ってたけど、男の方はきっと彼女に気があるよ。」

 

  テッド 「ほんとか?」

 

ジェイムズ 「だってキャサリンはさあ、モテるだろ?・・僕なんかと違ってさ。」

 

  テッド 「卑屈になるなよ。仮にその男がキャサリンを好きだとしても、キャサリンがその男に気があるかもまだわからないだろ。」

 

ジェイムズ 「うん、まあ・・そうなんだけど。」

 

  テッド 「よし、俺が明日お前の家行ってそのキャサリンがどんな子か見てやるよ。」

 

ジェイムズ 「待ってくれ!これは僕1人でやりたいんだ!」

 

      テッド  「慌てなさんなって。俺はただその子を見ているだけだ。」

 

ジェイムズ 「・・本当に?」

 

     テッド   「ああ。安心しろ。」

 

ジェイムズ 「・・わかった。」

 

 

    9 翌朝 マンション

 

  マンションの1

 

 テッド「それで、そのキャサリンって子は?」

 

ジェイムズ「もうすぐ来ると思う。」

 

 テッド「まさか。わからないだろ。」

 

ジェイムズ「・・来る。」

 

           上の階から階段を降りる足音がきこえる。

 

 テッド「マジかよ!」と上を見上げる。

 

ジェイムズ「よし!」

 

             1階に降りてきたキャサリン

 

キャサリン「あら、ジェイムズ。ん?そちらの方は?」

 

ジェイムズ「ああ、彼はテッド。学生時代からの友人さ。」

 

 テッド「どうも、こんにちは。」

 

キャサリン「ええ、こんにちは。私は・・。」

 

   テッド「キャサリンだろ。5階に住んでいる。」

 

キャサリン「ええ。でも、どうして?」

 

ジェイムズ「今さっき君が階段からここに降りてくる途中で、「誰だ?」ときかれたから答えただけさ。大丈夫。」

 

キャサリン「そう。ならいいけど。それじゃあ。」

 

ジェイムズ「うん。」

 

テッド  「おう。」

 

ジェイムズ「それで、・・どう?」

 

テッド  「・・良いな。」