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若いカーター、タッタッタッタッタと、暗闇の中で走り出す。

 

 若いカーター 待ってくれ!まだ!

 

 目の前に見えるジャックの背後。ジャックに向けて手を伸ばすが届かず、ジャックはどんどん遠ざかっていく。

 

 若いカーター 行くな!ジャック!

 

 目の前のジャックは扉を開けて入りその扉は閉まっていく。そして扉は遠ざかっていく。

 

 若いカーター 待ってくれ!

 

 

 書斎

 

 カーター ・・行くなジャック! はっ! 

 

 部屋中を見渡すカーター。

 

 カーター ・・またか。

 

 椅子から立ち上がり机の上に置かれた写真立ての男を見る。

 

 カーター ・・お前はいったい、私にどうしろと言うんだ。ジャック。

 

 職務室

 

   ナイジェル カーターさん!カーターさん!

 

 カーター なんだ騒々しい。少しは落ち着いたらどうだ。

 

 ナイジェル これが落ち着いていられますか!?例の役者を下ろしたんですって!?なんでまた!?

 

 カーター ・・私の勝手だ。やつからは何も感じなかった。

 

 ナイジェル せっかく私が何度も交渉してようやく引き受けてもらえたというのになんてことを!

 

 カーター ああいうやつは自分が目立つことしか考えとらん。こうなることも、やつには良い薬だ。

 

 ナイジェル またそんなことを言って!せっかくのチャンスが!

 

 カーター いいかげん、役者志望の気取ったアマチュアばかりを雇うのもいいかげんにしたらどうだ?うちはやつらの踏み台じゃない。もっとマシなのはいないのか?

 

 ナイジェル ええ居ましたよ。でもね、あなたが何人も下ろすせいでうちは悪評までついてしまって、今じゃ正規のプロにオファーできなくなったんですよ!だいだいあなたはね!ってあれ?

 

 ジェシカ 書斎へ行かれましたよ。

 

 ナイジェル ああもう!くそっ! 机を叩く。

 

 

 書斎

 

 物語の本を読んでいるカーター、

 

 カーターおじさん?とキャシーが書斎を覗きこむ。

 

 カーター やあキャシー。 本を閉じる。

 

 キャシー またナイジェルさんを怒らせて書斎に隠れているのね。

 

 カーター ナイジェルのやつが怒りっぽいんだ。

 

 キャシー そういうところ、ホント相変わらずね。

 

 カーター それで、何か用かな?

 

 キャシー さっきパリから帰ってきたところなの。それで挨拶でもと。

 

 カーター そうか、お疲れ様。パリはどうだったかな?

 

 キャシー とても良いところだったわ。こことは違った刺激があるわね。

 

 カーター それは良かった。

 

 キャシー ところでね?

 

 カーター うん?

 

 キャシー いつになったら私を撮ってくれるの?

 

 カーター うーん、難しいな。役に合う連中が集まらないことにはどうもできんよ。

 

 キャシー 私が見せた役者仲間は?

 

 カーター うーん、役のイメージと合わないんだな。

 

 キャシー そう。今回も一筋縄ではいかないみたいね。

 

 カーター 君を撮る前に逝ってるかもな。私は。

 

 キャシー 冗談言わないの。近いうちにまた用意するわ。必ずね。

 

 カーター それをきくだけでも冥土の土産にはなるな。

 

 キャシー またそんな事言って。本当に素直じゃないわね。

 

 カーター 君のお母さんからも同じことを言われるよ。

 

 キャシー まあいいわ。気が向いたら連絡を頂戴。それじゃあね。

 

 カーター ああ、達者でな。

 

 

 養成所

 

 役者志望の若者達が稽古している。

 

 ウォルター どうですかね?うちの若者達は。

 

 ナイジェル 良い人ばかりですね。カーターさん。

 

 カーター うん、そうだな。まあ、頑張ってはいるかな。

 

 ナイジェル また余計なことを!

 

 ウォルター ええ。うちもあらたに稽古場を増やしてなんとか若い精鋭達を育てています。できればカーターさんの今度の新作にこの中の誰かを入れていただきたいのですが。

 

 ナイジェル ホントですか!?やりましたね!カーターさん!

 

 カーター ・・うーむ、そうだな。

 

 カーター、若い俳優達を見渡すが不満気。

 

 ? あれっ?知らない人がいる。

 

 カーター ・・うん?

 

 ウォルター コラッ!また遅刻か!?

 

 ? ご、ごめんなさい!!

 

 ウォルター いいから早く参加するんだ!

 

 ? はいっ!!

 

 ナイジェル えっと、あの子は?

 

    ウォルター ああ、あの子はクリス、センスは感じるけれど、決められたことをなかなか守れない問題児ですよ。ご覧の通り礼儀知らずで。

 

 カーター ・・ふーむ。 

 

  ナイジェル どうされたんですか?カーターさん。

 

 カーター あのクリスという子はどうだろう?

 

 ウォルター はっ!? い、いやセンスは確かにありますけどまだまだ基礎がなっていなく、いくらカーターさんでもさすがにおやめになった方が。

 

 ナイジェル ・・やめておきましょうよ、カーターさん。ほら、あそこの子とか他にも良い生徒はいるんですから。

 

 カーター いや、あの子が良い。

 

 ナイジェル カーターさん!?

 

 ウォルター ・・本気ですか?

 

   カーター ああ。一度彼を呼んできてもらえるかな?

 

 ウォルター わかりました。

 

 

 クリス ど、どうも。

 

 ウォルター クリス!まともな挨拶もできないのか!

 

 クリス  す、すみません!よろしくお願いします。

 

 カーター まあ、いいから。それじゃあクリス、型にはめようとせずに音楽をききながら、ありのままに踊ってみて。

 

 クリス はい!

 

 クリスは音楽に沿って踊っていく。

 

 ナイジェル へえ、なかなかですね。

 

 ウォルター まあ、センスはあるんですよ。最年少でも年上についていけてますし。

 

 カーター、クリスをじっと見つめている。

 

 回想

 

 踊っている若いカーターとジャック、

 

 ジャック なんだよカーター、そんな固い動きじゃロボットみたいだぞ。

 

 若いカーター うるさい!俺が踊るんじゃないんだからべつにいいだろ。それより、少しは言われた通りに動いてくれ。

 

 ジャック 自分より下手なやつに言われてもな。言われた通りに動いて正解なのか疑っちまうぜ。

 

 若いカーター お前な!

 

 若いカレン はいはい、喧嘩は終わり!ジャック、少しはカーターの指示に合わせなさい。カーター、あなたは頭に血が昇りすぎ。

 

 ジャック へーい。

 

 若いカーター ・・はい。

 

 回想終わり

 

 カーター (いつだってそうだ。ジャック、お前はそうやってありのままに自由に舞う。お前が舞台に立てばお前が一番正しく見えてくる。だから私はそんなお前が・・。)

 

 音楽が止む。

 

 ウォルター カーターさん?

 

 カーター ・・ああ、なんだ?

 

 ウォルター ・・感想をききたいのですが。

 

 カーター ああ、そうだった。

 

 ナイジェル ・・大丈夫ですか?

 

 カーター ああ、大丈夫だ。良かったよ。是非うちの新作に出てほしい。

 

 ウォルター 本当ですか!是非お願いします!

 

 クリス やった!

 

 

 帰り道

 

 ナイジェル カーターさん。

 

 カーター なんだ?

 

 ナイジェル 本当にあの子だけで良かったんですか?他にも何人かはいたでしょう?

 

 カーター あの子だけでいい。あの子はまだ役者ではないからな。

 

 ナイジェル それはどういう意味で?

 

 カーター いずれわかるさ。

 

 

 翌日 稽古場

 

 カーター  クリスはいるかな?

 

 ウォルター はい、えっと。

 

 ナイジェル カーターさん、あそこにいますよ。

 

 講師に演技指導をされているクリス。

 

 講師女性 ええ、そうやって、そう、あなたできるじゃない!

 

 カーター いいかな?

 

 講師女性 は、はい!どうぞ!

 

 カーター やあ、クリス。元気かな?

 

 クリス まあまあです。

 

 ナイジェル なっ!

 

 カーター 良い返事だ。また今日も昨日と同じように踊ってくれるかな?

 

 クリス またあの曲を?

 

 カーター そうだ、君の思うがままに踊って貰えるかな?

 

 クリス はい。

 

 クリス、音楽に沿って踊る。

 

 

 回想

 

 ジャック はははっ、カーターは本当に踊りが下手だな。それじゃまるで生まれたての小鹿みたいだ。

 

 若き日のカーター 馬鹿にするな!これでも僕だって。

 

 ジャック 上手な先生に指導されてたって?何度もきいたぜ。お前は固いんだよ、身体も中身も。生き物はいつだって自分の意思で動くもんだ。

 

 若いカーター このっ!僕よりも上手いからって!

 

 回想終わり

 

   ナイジェル カーターさん?カーターさん?

 

   カーター  ! ああ、クリス、良い踊りだった。

 

   クリス   どうも。

 

   ナイジェル カーターさん、大丈夫ですか?

   カーター ああ、大丈夫だ。

 

   

   カーターの事務所 オフィス

 

   ナイジェル カーターさんはなぜあのクリスって子にこだわるんですか?

 

   カーター  どうしたんだ?急に。

 

   ナイジェル 急にじゃないですよ。昨日だって私は反対でした。他にも良い子は沢山いるのにあの子は本当に礼儀知らずで。

 

   カーター  はははっ!そうだな。本当にそうだ。その通りだ。

 

   ナイジェル 笑い事ではないでしょ!さっきから私は真面目な話をしているんです。

 

   カーター  私はいたって真面目だよ。

 

   ナイジェル 今のカーターさんが何を考えているのか私にはわかりません。

 

   カーター  だろうな。

 

   ナイジェル 確かにあのクリスにはセンスを感じる。飲み込みの早さもさっきのを見ればわかります。でもあれでは、共演者とうまくやれませんよ。現場の士気が下がっていきます。良い作品なんてとても。

 

   カーター ナイジェル、良い作品とはなんだ?

 

   ナイジェル はっ?何を言って。

 

   カーター 私が作りたいのは良い作品じゃない。面白い作品が作りたいんだ。

 

   ナイジェル ですから、このままでは面白い作品すら作れませんよ。

 

   カーター  本当にそうかな?

 

   ナイジェル ?

 

   カーター  クリスを見ているとあいつを思い出すんだ。

 

   ナイジェル あいつ?

 

   カーター  ああ、本当に礼儀知らずで自由気ままなやつさ。

 

 

   カーターの事務所 書庫

 

   調べ物をするナイジェル。

   

   ナイジェル まったくあの人は。

 

   回想

 

   ナイジェル その礼儀知らずで自由気ままなやつって誰なんですか?

 

   カーター 内緒。

 

   ナイジェル あなたって人は。どうしていつもそうやって相手をはぐらかすんですか!

 

   回想終わり

 

   ナイジェル あの人はいつも、自分の本心を語らない。だったらこっちから探るしか。あれっ?

 

   ダンボールの中で何かを見つける。

 

   ナイジェル 確かこの人は。