黄泉の世界

   黄泉の世界

 

ナレーション あなたには、相手が亡くなっていたとしてもまた会いたいと思うことはありますか?もちろん、死者の相手とです。これはそう思った人の物語です。

   

   夕方 中学校 廊下

佐藤 なあ、慎一。

慎一 ん?

佐藤 うちの母ちゃんからきいたけど、お前んとこの親戚のおじさん、交通事故で死んじゃったんだって?

慎一 ・・うん。

佐藤 あっ!ごめんな。人が亡くなったことをきくなんて俺ってほんと馬鹿だよな。

慎一 ううん、気にしないで。

佐藤 悪いな。変なこと言って。連絡くれればいつでもまたキャッチボールでもするからさ。いつでも誘ってくれよな。

慎一 うん。ありがとう。    

 

   夜 慎一の自宅

慎一 ただいま。

母  おかえり。慎一。明日なんだけど。

慎一 何?

母  明日学校休みだからおじさんの家に行くわよ。一応、遺品とか整理する必要あるし。

慎一 うん。

母  慎一はよくおじさんに遊んでもらったから辛いかもしれないけど。

慎一 ううん、大丈夫。

母  そう?でも無理はしちゃダメよ。もし辛いなら私1人でも・・。

慎一 ううん、大丈夫。いかせて。    

 

   翌日 おじさんの家 リビング

母  やけに片付いているわね。

慎一 おじさん、綺麗好きだから。

母  同じ兄弟でも、うちのお父さんは全然駄目ね。ちょっとは見習ってほしいわ。

慎一 そうだね笑

母  さて、私は食器棚とか見るから、慎一はおじさんの部屋を見てきて。

慎一 うん、わかった。

   

   おじさんの部屋

   本棚にある本を取り要るものと要らないものを段ボールに分けて入れている慎一。

慎一  んっ?

    1冊だけおかしな本がある。タイトルには「黄泉の世界」。

慎一  あれっ?この本。

 

    回想

おじさん なあ、慎一。

慎一   何? おじさん 人は亡くなったらどこへ行くと思う?

慎一   んー、天国?

おじさん 天国かー。まあ、そう答えるよな。

慎一   ?

おじさん 俺はな、人は亡くなったら黄泉の世界に行くと思うんだ?

慎一   黄泉の世界? おじさん ああ。ほらっ、この本?

     本のタイトルには「黄泉の世界」

慎一   よみのせかい?

おじさん そう。この本によるとだな、亡くなった人は黄泉の世界ってとこに行くらしいんだ?

慎一   で、でも。

おじさん ん?

慎一   それは本の話でしょ?

おじさん それが違うんだな、これが。

慎一   えっ?

おじさん 実は俺、黄泉の世界に一度だけ行ったことがあるんだ。

慎一   ええっ!?

おじさん 3年前に俺バイクで事故って大怪我したろ。重症で3日くらい意識全然戻らなくて。

慎一   うん。

おじさん でもな、俺はそん時に黄泉の世界に行けたんだ。

慎一   ・・。 おじさん 何言ってんだ?って呆れた顔してるな。

慎一   ・・うん。

おじさん 気持ちはわかるけどな。でもほんとなんだ。

慎一   ・・。

おじさん 死んだはずの父さんと母さんがいてさ、それにじいちゃんとばあちゃんも。みんなで近所の焼肉屋みたいなところで話しながら、肉食べてんだぜ。おかしいだろ?でも幸せな時間だったな。

慎一   ・・。

おじさん だからもし、俺が死んだってきいたらさ、黄泉の世界に行ったって思ってくれよ。      

     回想終わり

慎一   ・・。

母    慎一、ちゃんと片付いてる?

     台所から母の声がする。

慎一   う、うん!

      夜 自宅 慎一の部屋

慎一   ・・持ってきてしまった。

     慎一の手元には「黄泉の世界」の本。

慎一   黄泉の世界か。読むだけ読んでみよう。

本の内容 黄泉の世界とは、人の意識が身体から抜けた際に、抜けた意識が行き着く世界のことです。本来、人は身体のほかに、魂と呼ばれる意識体が存在します。魂はいまだに明確な答えが出ておりませんが、人は亡くなるか、亡くなる間際になると魂が身体から抜けると言われています。人の魂が身体から抜けて、抜けた魂達が行き着く場所、それが黄泉の世界です。

慎一   ふーん。黄泉の世界か。

母    慎一、入るわよ。

     扉を開ける音。

慎一   わっ! 母    何よ、そんなに驚いて。

慎一   いきなり入ってくるから。

母    あれっ?その本。

慎一   えっ?

母    それおじさんの本でしょ。

慎一   知ってるの?

母    この本、私が子供の頃からあるからね。黄泉の世界、懐かしいわ。

慎一   黄泉の世界ってほんとにあるの?

母    あるわけないでしょ。迷信よ。あっ、この本といえば。

慎一   何?

母    おばあちゃんが亡くなった時に、なぜかおじさんだけこの本を持ちながら何か言ってたわ。

慎一   ・・なんて?

母    んー、「きっとまた会える」とかなんとか。私やお父さんは不思議に感じたけど。

慎一   ねえ。

母    何よ?

慎一   おじさんはもしかして、この黄泉の世界に。

母    そんなわけないでしょ。おじさんは交通事故で死んじゃったんだから。

慎一   だから、おじさんは死んで黄泉の世界に!

母    あんたねえ!頭おかしくなったんじゃない。ほら、その本貸しなさい!早く宿題でもやりなさい!

     母、慎一から黄泉の世界の本を取り上げ部屋の扉を強く閉めて立ち去る。

慎一   黄泉の世界。     

     

     翌日 夜 自宅

     リビングで食事中の父と母

母    ねえ?

父    なんだよ。

母    最近、慎一の様子が変なのよ。

父    どういうこと?

母    最近、たかしさん亡くなったでしょ。

父    ・・ああ。交通事故だってな。

母    慎一はたかしさんによく遊んでもらっていてとても懐いていたから悲しいのはわかるんだけど、あの黄泉の世界って本を読んでから、たかしさんが黄泉の世界にいるって。

父    それはないだろ。黄泉の世界なんてただの迷信だ。

母    私もそう言ったのよ。でも、慎一の様子が。

慎一   ただいま。

父と母  !?

慎一   どうしたの?

父    帰りが遅いじゃないか。こんな時間までどこへ行ってたんだ?

慎一   おじさんの家。

母    この前一緒に行ったじゃない。もう用はないでしょ。

慎一   これ。

母    !? そ、その本。

慎一   黄泉の世界の本。もう一冊あったから。

父    慎一、黄泉の世界なんてただの迷信だぞ。

母    そ、そうよ。そんなのデタラメよ。

慎一   そんなことない!! 父と母  !?

慎一   おじさんはきっと黄泉の世界にいるんだ。そう、死んだおばあちゃんだって。

母    慎一、いいかげんになさい!

慎一   うるさいな!!

父    慎一!

     父、慎一の頬をビンタする。

父    いいかげんにしろ!母さんになんて態度だ!

慎一   !!

     慎一、家を飛び出す。

母    慎一!

父    ほっとけ!頭を冷やさせろ!

 

     外      走る慎一。

慎一   はあ、はあ!

?    おや?夜道をランニングですか?勇ましい。

慎一   あなたは?

?    通りすがりのただの老いぼれです。おや?

慎一   えっ?

?    これはこれは懐かしい。まさかその本をお持ちとは。

慎一   この本のことをご存知ですか?

?    勿論です。その本の作者は私ですから。

慎一   えっ!教えてください!?黄泉の世界はどうやって行けば!?

?    あなたはすでに気づいておられるんでしょう?その答えが。

慎一   ま、まさか!

?    そう。あなたの考えている通りです。

慎一   そ、そんな。まさか。

?    さて、私はこれで失礼します。

慎一   ・・。

     

     夜中の街

     父と母、慎一を探して走っている。

父    おい、見つかったか!?

母    いいえ。

父    くそ!慎一のやつどこへ!?

 

     川の橋の上

     橋の上から下の川を覗きこむ慎一

慎一   こ、これで僕も黄泉の世界に。おじさんのところに。

?    おやおや、こんなところでまたお目にかかるとは。

慎一   あなたは!?

?    先程はどうも。こんなところで何をされるおつもりで?

慎一   ぼ、僕も黄泉の世界に行きたくて。

?    なるほど。それで川の下を覗きこんでおられると?

慎一   は、はい。

?    いやあ、これはこれは。何と言葉にすればいいのか。

慎一   はい?

?    先程は私の言葉の意味をご理解いただけたのかと思いましたが、まさかそちらの方でしたか。

慎一   えっ?

?    ないんですよ。黄泉の世界なんて。

慎一   はあ!?

?    わかるでしょ。物語なんてフィクションなんですから。

慎一   ・・そんな。

母と父  慎一!

?    ではこれで失礼しますよ。

母    慎一、大丈夫!?

父    心配させやがって!

母    いいじゃないの。無事なんだから。

慎一   と、父さん。母さん。

父    どこか痛いのか?

母    大丈夫?

慎一   ・・ごめんなさい。僕は本当に馬鹿だ。黄泉の世界なんてあるわけないのに。

父    もういい。帰るぞ。

母    ご飯、ちゃんと用意してあるんだから。      END

幸せってなんだ?

     幸せってなんだ?

 

     トーク番組内

 

ティーブン 幸せが何かって?ええ、知ってますよ。愛すべき家族に囲まれながら規則正しい食生活を送り、毎日のランニングも欠かさずに行う。それによって心身ともに充実した毎日を送ることです。

 

番組MC     他にはありますか?

 

ティーブン んー、そうですね。職場の同僚とか学生時代からの友人と休日にフットサルとかもいいんじゃないかな。

 

番組MC     お答えいただきありがとうございました。本日のゲストは幸せ評論家のスティーブンさんでした。

 

ティーブン 皆さんにも幸せを。幸あれ。(投げキッスをする。)

 

     客席から女性の黄色い声援がきこえる。

 

 

     自宅

 

トビー  ・・アホくさ。

 

    テレビ画面に向かって呟くトビー。

 

ティーブン なんだ?またそれを観てるのか。昨日放送したやつだろ。

 

トビー  ねえ、なんでこんなことしてんのに売れてんの?投げキッスなんて必要ある?

 

ティーブン お茶の間の奥様にはこうやった方がウケが良いんだよ。ほらっ。(投げキッスをする)

 

トビー  うわっ!

 

     トビー、投げキッスを避けるように首を横に振る。

 

ティーブン うわっ!ってお前、大事な商売道具だぞ。

 

トビー  ・・信じらんない。それに幸せ評論家なんて嘘でしょ。

 

ティーブン こういうのは名乗ったもん勝ちだ。よくわからない肩書きの評論家なんてテレビで沢山いるだろ。

 

トビー  ・・母さん出て行ったのに。どこが幸せなんだか。

 

ティーブン くれぐれも友達とかには絶対言うなよ。

 

トビー  言えるわけないよ。幸せ評論家の息子だなんて言ったらみんなに馬鹿にされる。

 

ティーブン まあそう言うな。言われるうちが華なんだ。だいたいテレビ番組のタレントなんてそんなもんだよ。

 

トビー  出たよ。子供に言っちゃ駄目な台詞。

 

ティーブン ・・なあ、トビー。いいかげん、パパの仕事を理解してくれ。母さんが出て行った今、お前と暮らしていくにはこうするしかないんだ。

 

トビー  ・・わかってるよ。感謝してる。

 

ティーブン 本当か!

 

トビー  ・・まあ、時々だけど。

 

ティーブン ・・時々か。

 

トビー  それより、そろそろ時間じゃない?

 

ティーブン おっと!そうだった!じゃあ、行ってくる!

 

トビー  パパ!

 

ティーブン うん?

 

トビー  頑張って!

 

ティーブン おう!

 

 

     町 道中

 

?    あら、スティーブン。

 

ティーブン やあ、ドロシー。久しぶりだな。

 

ドロシー しばらく見ないうちに、とても色っぽくなったわね。

 

ティーブン 仕事柄こういう格好をするのが多いんだ。でも息子には評判悪くて。

 

ドロシー ふふふ。これからお仕事?

 

ティーブン ああ。そろそろ時間なんだ。急がないと。それじゃ。

 

ドロシー ええ。

 

 

     テレビ番組 打ち合わせ

 

プロデューサー それで、今後のことなんですが。

 

ティーブン  はい。

 

プロデューサー 是非ともうちの番組でスティーブンさんのコーナーをやっていただきたくて。

 

ティーブン  ほんとですか!?

 

プロデューサー はい。タイトルは幸せ占いとか。

 

ティーブン  ・・でも私は占いはできませんよ。

 

プロデューサー いいんです!こちらで占い師を雇いますんで、スティーブンさんには台本通りに喋ってもらえれば。

 

ティーブン  ・・はあ。

 

プロデューサー スティーブンさんが占いをやっているように見えれば良いので。

 

ティーブン   ・・でもそれ、ヤラセなんですよね?

 

プロデューサー いいえ。これは別にスティーブンさんが占い結果を出していると紹介するわけではありませんし、あくまでコーナーの顔ですから。

 

ティーブン  ・・でも。その。

 

プロデューサー スティーブンさんはまだこの業界に入られたばかりで知らないでしょうが、テレビ番組なんてそんなもんですよ。

 

ティーブン ・・。

 

プロデューサー ほら例えば、タレントさんの休日にカメラが密着するなんて番組はハナからカメラついてて休日じゃなくてロケですし、はじめて店に入って食事するような番組も、事前にアポとって店で一度食べてから撮影してますからね。まあ全部、視聴者を楽しませるための演出なんですよ。

 

ティーブン ・・・。

 

プロデューサー 色々考えたいこともあるでしょうから1週間待ちますので返答をお願いします。

 

ティーブン ・・わかりました。

 

プロデューサー 良い返事を期待してますよ♪

 

 

       家

 

ティーブン なあ、トビー。

 

トビー    何?

 

ティーブン お前、好きな芸能人とかいるのか?

 

トビー    いるよ。最近だとほら、CMにも出てるこの人。

 

CMのマッチョ芸能人 はーはっはっは!毎日飲めばこの通り!

 

ティーブン ・・お前こんなのが好きなのか?

 

トビー   この人バラエティとかにも出て面白いんだよ。

 

ティーブン ・・最近の子供の趣味はわからんな。

 

 

      バラエティ番組

 

MC              さて今日のゲストは、近頃有名な幸せ評論家であるスティーブンさんにお越しいただきました!

 

ティーブン どうもー!

 

MC             バラエティ出演の経験はありますか?

 

ティーブン いやあ、初めてでして。

 

MC             幸せワードとか強そうですけど。

 

ティーブン そうですねー、答えられなきゃほんとまずいですね笑

 

     客席から笑いの声が出る。

 

MC            さて早速ですが!

 

ティーブン ?

 

MC            今日は新たなゲストの方にもお越しいただきました!

 

?    はーはっはっは!!

 

ティーブン !!

 

MC           近頃CMの出演数が益々伸びているアームズストロングさんにお越しいただきました!

 

ティーブン (こ、こいつ、トビーが好きなタレントか。)

 

MC          さて、アームズストロングさん、意気込みをどうぞ!

 

アームズストロング 幸せ評論家だか知らんが、必ず勝ぁぁつ!

 

ティーブン (うわあ、苦手なタイプ。)

 

MC        さてスティーブンさんも意気込みを。

 

ティーブン えっ?

 

     カンペには「投げキッスありで」とある。

 

ティーブン 頑張ります。チュッ(投げキッス)

 

     観客から黄色い歓声。

 

MC           では最初の問題です!

 

          SE デデン!

 

MC           映画バスターウォーズで主人公ドークの宿敵であるベイダーの正体は主人公の何でしたか?

 

ティーブン (トビーと去年観に行った映画だ。確かベイダーの正体は主人公ドークの父親だ。わかる! ・・いや、待てよ。これはバラエティだ。昼にやってるストライク35みたいに真面目に答えて正解すると早く終わってしまう。こういう時は。)

 

          SE ポーンとボタンを押す音

 

MC            ティーブンさん、答えていただきましょう。

 

ティーブン 答えは、お兄さんかな?

 

          SE ブブーッ!と不正解の音。

 

ティーブン あらら、やっちゃった。

 

      観客から笑いが起きる。

 

MC         アームズストロングさんはいかがですか?

 

アームズストロング ぬおおおー!

 

                SE ガンッ!と強い音がする。

 

ティーブン !!

 

MC            な、なんということでしょう。アームズストロングさんの渾身の力で手押しボタンが壊れてしまいましたー。続行不可能ということでスティーブンさんの勝利です。

 

ティーブン どうもー!!

 

      観客からの拍手。

 

ティーブン (なんかスッキリせん。力入れるところ違うだろ。トビー、勝ってすまんな。)

 

MC           ではまた来週。

 

 

 

     1週間後 自宅

 

                  テレビを観ているトビー。

 

MC           ティーブンさんの勝利です。

 

ティーブン どうもー!!

 

     観客からの拍手。

 

ティーブン (まずいな。これ今日放送だったのか。トビーが好きなアームズなんちゃらを負かした以上、どうもきまずい。)

 

トビー    お父さん。

 

ティーブン !!(ビクッと。)

 

トビー    アームズストロングどうだったー?

 

ティーブン うん、まあ。すごい筋肉だったよ。(本当に脳味噌まで筋肉だった。)

 

トビー    凄ーい!

 

ティーブン そうか、まあ良かった。(あんなのの何がいいんだ?)

 

     SE 電話の着信音

 

ティーブン はい。 電話に出る。

 

プロデューサー どうもー、ご無沙汰してます。

 

ティーブン ご、ご無沙汰してます。

 

プロデューサー 以前お話しした占いコーナーの件ですが、ご検討いただけましたでしょうか?

 

ティーブン いえ、その。

 

プロデューサー 大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫。

 

ティーブン もう少し考えさせてください。

 

プロデューサー わかりました。明日の打ち合わせの時に。

 

ティーブン ・・。

 

 

     

    テレビ曲

 

プロデューサー お待ちしていましたよ。さあ、お返事をどうぞ。

troupe2

troup3

           

                 カーターの寝室

             寝ているカーター。

     夢の中

ジャック おい、カーター。      

  寝室のベッドで眠っているカーターをそばで呼びかける若い姿のジャック。そして、カーターがジャックの声で目覚め起き上がる。

カーター なんだ。また出てきたのか。

ジャック なんだとはなんだ。お前が俺を忘れようなんてできないだろ。

カーター それもそうだな。お前はいつも私から離れようとしない。

ジャック 勘違いすんなよ。お前が俺を離さないんだろ。

カーター ・・いいかげん、成仏したらどうだ。このままじゃ私の方が先に逝っちまう。

ジャック それはないさ。お前が逝く時は俺も一緒だ。

カーター そうならないことを願いたいな。

ジャック わかってるだろ。なんせ俺は・・。

     カーターの視界が霞み、ジャックの姿まで霞んでいく。

          朝 カーターの部屋

          目覚めて起き上がるカーター。

 カーター ・・ああ、知ってるとも。お前は私の・・。

          カーターのオフィス

ナイジェル カーターさん、カーターさん。

   廊下からオフィスへ小走りで入ってくるナイジェル

カーター  相変わらず騒々しいな。今度はなんだ?

ナイジェル なんだと思います?

カーター  知らん。わからないからきいとるんだ。

ナイジェル それもそうですね。ジャジャン!これを見つけたんです。

            雑誌をカーターに見せるナイジェル。表紙にはACTORのタイトル文字。

カーター  ? なんだそれは?

ナイジェル 昔の雑誌ですよ。なんか人気劇団の特集みたいです。

カーター  私には関係ないだろ。

ナイジェル 私も最初はそう思っていたのですが、これ!

カーター  !       

     ナイジェルが雑誌のページを開いてカーターに見せる。そのページには若いカーターの姿が。

ナイジェル これカーターさんですよね?いやあ、若いなあ。

カーター  それをどこで見つけたんだ?

ナイジェル 資料室です。資料の本から知恵を借りたくて。それにしても、カーターさんが劇団員だったなんて初耳ですよ。

カーター  ・・・。

ナイジェル もしかして、主役だったとか?

カーター  ・・まあな。そんな時期もあった。

ナイジェル 本当に!?それは観たかったです。他の雑誌になら載ってるかも。

カーター  それはないな。取材はその1回だけだ。メディアが見せたがるのはせいぜいテレビにも出るような有名人ばかりだからな。

ナイジェル それは残念。それにしても、カーターさんにも若い頃があったんですね。

カーター  当たり前だ。人を化け物扱いするな。

ナイジェル すみません、最初に会った頃と今が変わらないもので。

カーター  お前もな。話は終わりか?

ナイジェル ええ。

カーター  しばらく散歩してくる。

     公園

                 ベンチに座り、ジャングルジムやブランコなどの遊具で遊ぶ子供達を見ているカーター。

     回想 舞台場

ジャック おいカーター、少しはガキの気持ちになって遊んでやってみろよ。そうすればもっと上手くなる。

若いカーター 何を言っているんだ!せっかくの公演に遊びなんてふざけている!少しは真面目に考えてくれ!

ジャック お前のそういう素直じゃないところがちっとはなくなればな。

若いカーター お前のように軽い気持ちでできるものか!大事な舞台なんだぞ!

ジャック 大事な舞台だから楽しむんだろ。

     回想終わり ?

?    おじいさん?

                  ベンチの横から子供の声がする。

カーター うん?

                  振り向くと、遊具で遊んでいた子供達のうちの3人。

子供A 大丈夫?

子供B 声きこえてる?

子供C 意識ある?      

     次々と質問してくる子供。

カーター ああ、大丈夫だ。ボーッとしていただけだ。心配ない。

子供A.B.C 良かったー!!

カーター 心配かけたな。すまなかった。

     子供達は手を振りながら遊具遊びに戻っていく。

カーター ・・・。

(ジャック 少しはガキの気持ちになって遊んでみろよ。)

カーター !      

     カーターの頭の中でジャックの言葉が浮かんでくる。

カーター ・・そんなものは私にとってはナンセンスだ。今でもな。      

     カーター、公園から立ち去る。

     カーターの事務所

カーター 戻った。

ナイジェル カーターさん、帰ってきましたか?

カーター なんだ?

ナイジェル 大変なんです!あのクリスって子が。

カーター ?

troupe

 troupe1

 

若いカーター、タッタッタッタッタと、暗闇の中で走り出す。

 

 若いカーター 待ってくれ!まだ!

 

 目の前に見えるジャックの背後。ジャックに向けて手を伸ばすが届かず、ジャックはどんどん遠ざかっていく。

 

 若いカーター 行くな!ジャック!

 

 目の前のジャックは扉を開けて入りその扉は閉まっていく。そして扉は遠ざかっていく。

 

 若いカーター 待ってくれ!

 

 

 書斎

 

 カーター ・・行くなジャック! はっ! 

 

 部屋中を見渡すカーター。

 

 カーター ・・またか。

 

 椅子から立ち上がり机の上に置かれた写真立ての男を見る。

 

 カーター ・・お前はいったい、私にどうしろと言うんだ。ジャック。

 

 職務室

 

   ナイジェル カーターさん!カーターさん!

 

 カーター なんだ騒々しい。少しは落ち着いたらどうだ。

 

 ナイジェル これが落ち着いていられますか!?例の役者を下ろしたんですって!?なんでまた!?

 

 カーター ・・私の勝手だ。やつからは何も感じなかった。

 

 ナイジェル せっかく私が何度も交渉してようやく引き受けてもらえたというのになんてことを!

 

 カーター ああいうやつは自分が目立つことしか考えとらん。こうなることも、やつには良い薬だ。

 

 ナイジェル またそんなことを言って!せっかくのチャンスが!

 

 カーター いいかげん、役者志望の気取ったアマチュアばかりを雇うのもいいかげんにしたらどうだ?うちはやつらの踏み台じゃない。もっとマシなのはいないのか?

 

 ナイジェル ええ居ましたよ。でもね、あなたが何人も下ろすせいでうちは悪評までついてしまって、今じゃ正規のプロにオファーできなくなったんですよ!だいだいあなたはね!ってあれ?

 

 ジェシカ 書斎へ行かれましたよ。

 

 ナイジェル ああもう!くそっ! 机を叩く。

 

 

 書斎

 

 物語の本を読んでいるカーター、

 

 カーターおじさん?とキャシーが書斎を覗きこむ。

 

 カーター やあキャシー。 本を閉じる。

 

 キャシー またナイジェルさんを怒らせて書斎に隠れているのね。

 

 カーター ナイジェルのやつが怒りっぽいんだ。

 

 キャシー そういうところ、ホント相変わらずね。

 

 カーター それで、何か用かな?

 

 キャシー さっきパリから帰ってきたところなの。それで挨拶でもと。

 

 カーター そうか、お疲れ様。パリはどうだったかな?

 

 キャシー とても良いところだったわ。こことは違った刺激があるわね。

 

 カーター それは良かった。

 

 キャシー ところでね?

 

 カーター うん?

 

 キャシー いつになったら私を撮ってくれるの?

 

 カーター うーん、難しいな。役に合う連中が集まらないことにはどうもできんよ。

 

 キャシー 私が見せた役者仲間は?

 

 カーター うーん、役のイメージと合わないんだな。

 

 キャシー そう。今回も一筋縄ではいかないみたいね。

 

 カーター 君を撮る前に逝ってるかもな。私は。

 

 キャシー 冗談言わないの。近いうちにまた用意するわ。必ずね。

 

 カーター それをきくだけでも冥土の土産にはなるな。

 

 キャシー またそんな事言って。本当に素直じゃないわね。

 

 カーター 君のお母さんからも同じことを言われるよ。

 

 キャシー まあいいわ。気が向いたら連絡を頂戴。それじゃあね。

 

 カーター ああ、達者でな。

 

 

 養成所

 

 役者志望の若者達が稽古している。

 

 ウォルター どうですかね?うちの若者達は。

 

 ナイジェル 良い人ばかりですね。カーターさん。

 

 カーター うん、そうだな。まあ、頑張ってはいるかな。

 

 ナイジェル また余計なことを!

 

 ウォルター ええ。うちもあらたに稽古場を増やしてなんとか若い精鋭達を育てています。できればカーターさんの今度の新作にこの中の誰かを入れていただきたいのですが。

 

 ナイジェル ホントですか!?やりましたね!カーターさん!

 

 カーター ・・うーむ、そうだな。

 

 カーター、若い俳優達を見渡すが不満気。

 

 ? あれっ?知らない人がいる。

 

 カーター ・・うん?

 

 ウォルター コラッ!また遅刻か!?

 

 ? ご、ごめんなさい!!

 

 ウォルター いいから早く参加するんだ!

 

 ? はいっ!!

 

 ナイジェル えっと、あの子は?

 

    ウォルター ああ、あの子はクリス、センスは感じるけれど、決められたことをなかなか守れない問題児ですよ。ご覧の通り礼儀知らずで。

 

 カーター ・・ふーむ。 

 

  ナイジェル どうされたんですか?カーターさん。

 

 カーター あのクリスという子はどうだろう?

 

 ウォルター はっ!? い、いやセンスは確かにありますけどまだまだ基礎がなっていなく、いくらカーターさんでもさすがにおやめになった方が。

 

 ナイジェル ・・やめておきましょうよ、カーターさん。ほら、あそこの子とか他にも良い生徒はいるんですから。

 

 カーター いや、あの子が良い。

 

 ナイジェル カーターさん!?

 

 ウォルター ・・本気ですか?

 

   カーター ああ。一度彼を呼んできてもらえるかな?

 

 ウォルター わかりました。

 

 

 クリス ど、どうも。

 

 ウォルター クリス!まともな挨拶もできないのか!

 

 クリス  す、すみません!よろしくお願いします。

 

 カーター まあ、いいから。それじゃあクリス、型にはめようとせずに音楽をききながら、ありのままに踊ってみて。

 

 クリス はい!

 

 クリスは音楽に沿って踊っていく。

 

 ナイジェル へえ、なかなかですね。

 

 ウォルター まあ、センスはあるんですよ。最年少でも年上についていけてますし。

 

 カーター、クリスをじっと見つめている。

 

 回想

 

 踊っている若いカーターとジャック、

 

 ジャック なんだよカーター、そんな固い動きじゃロボットみたいだぞ。

 

 若いカーター うるさい!俺が踊るんじゃないんだからべつにいいだろ。それより、少しは言われた通りに動いてくれ。

 

 ジャック 自分より下手なやつに言われてもな。言われた通りに動いて正解なのか疑っちまうぜ。

 

 若いカーター お前な!

 

 若いカレン はいはい、喧嘩は終わり!ジャック、少しはカーターの指示に合わせなさい。カーター、あなたは頭に血が昇りすぎ。

 

 ジャック へーい。

 

 若いカーター ・・はい。

 

 回想終わり

 

 カーター (いつだってそうだ。ジャック、お前はそうやってありのままに自由に舞う。お前が舞台に立てばお前が一番正しく見えてくる。だから私はそんなお前が・・。)

 

 音楽が止む。

 

 ウォルター カーターさん?

 

 カーター ・・ああ、なんだ?

 

 ウォルター ・・感想をききたいのですが。

 

 カーター ああ、そうだった。

 

 ナイジェル ・・大丈夫ですか?

 

 カーター ああ、大丈夫だ。良かったよ。是非うちの新作に出てほしい。

 

 ウォルター 本当ですか!是非お願いします!

 

 クリス やった!

 

 

 帰り道

 

 ナイジェル カーターさん。

 

 カーター なんだ?

 

 ナイジェル 本当にあの子だけで良かったんですか?他にも何人かはいたでしょう?

 

 カーター あの子だけでいい。あの子はまだ役者ではないからな。

 

 ナイジェル それはどういう意味で?

 

 カーター いずれわかるさ。

 

 

 翌日 稽古場

 

 カーター  クリスはいるかな?

 

 ウォルター はい、えっと。

 

 ナイジェル カーターさん、あそこにいますよ。

 

 講師に演技指導をされているクリス。

 

 講師女性 ええ、そうやって、そう、あなたできるじゃない!

 

 カーター いいかな?

 

 講師女性 は、はい!どうぞ!

 

 カーター やあ、クリス。元気かな?

 

 クリス まあまあです。

 

 ナイジェル なっ!

 

 カーター 良い返事だ。また今日も昨日と同じように踊ってくれるかな?

 

 クリス またあの曲を?

 

 カーター そうだ、君の思うがままに踊って貰えるかな?

 

 クリス はい。

 

 クリス、音楽に沿って踊る。

 

 

 回想

 

 ジャック はははっ、カーターは本当に踊りが下手だな。それじゃまるで生まれたての小鹿みたいだ。

 

 若き日のカーター 馬鹿にするな!これでも僕だって。

 

 ジャック 上手な先生に指導されてたって?何度もきいたぜ。お前は固いんだよ、身体も中身も。生き物はいつだって自分の意思で動くもんだ。

 

 若いカーター このっ!僕よりも上手いからって!

 

 回想終わり

 

   ナイジェル カーターさん?カーターさん?

 

   カーター  ! ああ、クリス、良い踊りだった。

 

   クリス   どうも。

 

   ナイジェル カーターさん、大丈夫ですか?

   カーター ああ、大丈夫だ。

 

   

   カーターの事務所 オフィス

 

   ナイジェル カーターさんはなぜあのクリスって子にこだわるんですか?

 

   カーター  どうしたんだ?急に。

 

   ナイジェル 急にじゃないですよ。昨日だって私は反対でした。他にも良い子は沢山いるのにあの子は本当に礼儀知らずで。

 

   カーター  はははっ!そうだな。本当にそうだ。その通りだ。

 

   ナイジェル 笑い事ではないでしょ!さっきから私は真面目な話をしているんです。

 

   カーター  私はいたって真面目だよ。

 

   ナイジェル 今のカーターさんが何を考えているのか私にはわかりません。

 

   カーター  だろうな。

 

   ナイジェル 確かにあのクリスにはセンスを感じる。飲み込みの早さもさっきのを見ればわかります。でもあれでは、共演者とうまくやれませんよ。現場の士気が下がっていきます。良い作品なんてとても。

 

   カーター ナイジェル、良い作品とはなんだ?

 

   ナイジェル はっ?何を言って。

 

   カーター 私が作りたいのは良い作品じゃない。面白い作品が作りたいんだ。

 

   ナイジェル ですから、このままでは面白い作品すら作れませんよ。

 

   カーター  本当にそうかな?

 

   ナイジェル ?

 

   カーター  クリスを見ているとあいつを思い出すんだ。

 

   ナイジェル あいつ?

 

   カーター  ああ、本当に礼儀知らずで自由気ままなやつさ。

 

 

   カーターの事務所 書庫

 

   調べ物をするナイジェル。

   

   ナイジェル まったくあの人は。

 

   回想

 

   ナイジェル その礼儀知らずで自由気ままなやつって誰なんですか?

 

   カーター 内緒。

 

   ナイジェル あなたって人は。どうしていつもそうやって相手をはぐらかすんですか!

 

   回想終わり

 

   ナイジェル あの人はいつも、自分の本心を語らない。だったらこっちから探るしか。あれっ?

 

   ダンボールの中で何かを見つける。

 

   ナイジェル 確かこの人は。

 

 

 

 

恋愛もの。

 

 

   1 夕方の電車の車内

 

?           「おいっ!ジェイムズ。」

 

ジェイムズ 「テッド!」

 

テッド   「珍しいな。お前と一緒の電車なんて。」

 

ジェイムズ 「今日は生徒の進路相談があってね。生徒の保護者とも話す必要があって遅くなったんだ。」

 

テッド   「それはまあ、大変だな。」

 

ジェイムズ 「そうでもないさ。大変なのはどこも一緒だろ?」

 

       テッド  「そりゃそうだ。こうして会うのも久しぶりだな。何年ぶりだ?」

 

ジェイムズ 「大学卒業以来だから12年くらいだね。」

 

  テッド 「どうだ?少しは出世したか?」

 

ジェイムズ 「全然。まだまださ。」

 

テッド   「ところでこれ!」

 

    テッド、上着のポケットから何かを取り出す。

 

ジェイムズ 「なんだい?それは?」

 

テッド   「来週ホールで開かれる演奏会のペアチケットだ。お前好きだったろ、こういうの。」

 

ジェイムズ 「そうだね。しばらく忙しくて行けてないけど。」

 

テッド   「たまには彼女とハメを外して楽しんでこいよ。」

 

ジェイムズ 「ありがとう。でも、君はいいのかい?彼女いただろ。」

 

テッド   「ほら、これ。」

 

   テッドが指にはめた結婚指輪を見せる。

 

ジェイムズ 「結婚したのか!?」

 

テッド   「そう。それでうちの嫁は出産間近の妊婦だからいけないんだ。だから貰ってくれ。」

 

ジェイムズ 「ありがとう。・・でも。」

 

テッド   「今は彼女いないのか?それとも片想い?」

    

ジェイムズ    「・・まあね。」

 

テッド   「じゃあ思い切って誘ってみろよ。」

 

ジェイムズ 「あぁ。」

 

 

   2 ロンドン郊外 マンション

 

    部屋から出て3階から階段の下を覗きこむジェイムズ。

 

ジェイムズ 「おっ?」

 

    1階からキャサリンが階段を登って行く。

 

ジェイムズ 「おっと。」

 

    ジェイムズ、服装を整える。

 

キャサリン 「あら、ジェイムズ。」

 

ジェイムズ 「やあ、キャサリン。偶然だね。」

 

キャサリン 「ほんと。私が階段を登っているとなぜかいつもあなたがいるわね。」

 

ジェイムズ 「ほんとに偶然が重なりすぎだよ。・・何か意味でもあるんじゃないかな?」

 

キャサリン 「意味?」

 

ジェイムズ 「いや、なんでもない。偶然が重なることも意外によくあることだからね。」

 

キャサリン 「そうかしら?」

 

ジェイムズ    「・・えっ?」

 

キャサリン 「偶然が重なるってことは、そこに何かしらの意味があるって私は思うわ。」

 

ジェイムズ 「・・その意味って?」

 

キャサリン 「さてね。それじゃあ。」

     

                      階段をさらに登るキャサリン

 

ジェイムズ 「あのさ、キャサリン、これ、よかったら、あっ、行っちゃった・・。」

 

 

   3 その日の夜 ジェイムズの自宅の寝室 電話

 

  テッド 「それでお前、その子を誘えなかったのか?」

 

ジェイムズ 「・・仕方ないだろ。彼女の前だと・・なんかこう、緊張するんだ。」

 

  テッド 「あんまり失敗ばかりしているとそのうち感づかれて気味悪がられるぞ。」

 

ジェイムズ 「よしてくれ!彼女はそんな人じゃないんだ。とても純粋なんだ。影がないというか・・。とにかくそんな人じゃない。」

 

  テッド 「お前相当その子に入れ込んでいるんだな。」

 

ジェイムズ 「・・まあね。」

 

テッド   「お前の恋愛話なんて久しぶりだからな。俺もなんとかしてあげたいところだが。」

 

ジェイムズ 「いいんだ。これは僕1人でやらなければ。」

 

  テッド 「相変わらず真面目だな。まあ、しっかり励めよ。じゃあな。」

 

ジェイムズ 「ああ。」

 

 

     4 翌日 ハイスクール 教室

 

     黒板に文字を書いているジェイムズ。

 

ジェイムズ  「・・それで、この公式の答えなんだけど、わかる人いる?」

 

                生徒、反応なし。

 

ジェイムズ 「それじゃあ、この問題はどうかな?昨日やったところだし、これなら。」

 

               生徒、反応なし。

 

ジェイムズ 「・・はあ。(溜息)

 

   生徒  「ジェイムズ先生。」

 

ジェイムズ 「おっ!じゃあこの問題の答えは何かな?」

 

   生徒 「そのネクタイださい。」

 

ジェイムズ 「なっ!?」

 

      生徒一同笑い。

 

ジェイムズ 「・・本当に?」

 

         生徒  「うん。ほんとに。」

 

ジェイムズ 「そうかな、人から貰ったものなんだけど。」

 

         生徒   「もしかして彼女?」

 

    チャイムの音が鳴る。

 

ジェイムズ 「・・そろそろ時間だから授業はこれで。」

 

        生徒一同   「ええー!」

 

     ジェイムズ、教室から出る。

 

 

    5 教員用男性用トイレ

 

     手洗い場のガラスで自分を見ているジェイムズ。

 

ジェイムズ 「・・はあ。」

 

ティーブ 「ジェイムズ先生、どうされました?ため息なんてついて。」

 

      背後から社会科教師のスティーブが語りかける。

 

ジェイムズ 「なあ、このネクタイ変かな?」

 

ティーブ 「・・うーん、ちょっと。」

 

ジェイムズ 「・・そんなに?」

 

ティーブ 「僕ならもう少しシンプルな色を。」

 

ジェイムズ 「・・ふーん、そうか。」

 

      ジェイムズ、ネクタイを外しそのままネクタイをゴミ箱の中へ。そのまま去って行く。

 

ティーブ 「ちょっと!ジェイムズ先生ー!」

 

     

     6 夜 とあるバー

 

ジェイムズ 「まったく、近頃の子供は。まともに勉強もしないくせにああやって人を侮辱することばかり。これじゃあせっかくの教育もどんどん廃れてしまう。」

 

バーテンダー 「お疲れですか?」

 

ジェイムズ 「そうなんだよ。ほんと教師って仕事はなかなか報われないよ。せっかく生徒が学ぶための授業なのに肝心の生徒は全然話を聞く気がない。」

 

  テッド 「そんなもんだろ。」

 

ジェイムズ 「テッド!」

 

  テッド 「よお。」

 

ジェイムズ 「どうして君が!?」

 

       テッド 「ここのバー、俺も行きつけなんだ。いつものを頼む。」

 

バーテンダー 「かしこまりました。」

 

  テッド  「あれっ?お前ネクタイどうした?」

 

ジェイムズ 「・・・」

 

       テッド 「・・きいちゃまずかったか?」

 

ジェイムズ 「・・生徒にダサいって笑われたから捨てた。」

 

      テッド 「良かったのか?捨てて。」

 

ジェイムズ 「いくら生徒が子供とはいえ、大勢に笑われたんだ。あんな経験はじめてさ。」

 

     テッド 「・・そうか。それで例の彼女とはうまくいったのか?」

 

ジェイムズ 「今日はまだ会えてない。なあ、やはり俺みたいな理屈っぽいのはやはりモテないのかな?」

 

  テッド 「そうでもないさ。モテない医者や弁護士だっているから。」

 

ジェイムズ 「そうかなあ。」

 

  テッド 「まあ、それも個人差あるけどな。あとはルックスかもな。」

 

ジェイムズ 「・・ルックスかあ。」

 

  テッド 「まあ、相手に嫌われてなければ脈はあるかもな。」

 

ジェイムズ 「・・ああ。」

 

    

     7 深夜 マンション

 

ジェイムズ 「・・ふう。」

 

      階段を登っていくジェイムズ。

 

キャサリン 「あら、ジェイムズ。」

 

ジェイムズ 「キャサリン! 珍しいね。君がそこにいるなんて。」

 

キャサリン 「ええ、なぜかいつもはあなたがここにいるのに。」

 

ジェイムズ 「・・いやあ、ははは・・。ところで、こんな時間にお出かけかい?」

 

キャサリン 「ええ、友達からパーティーに誘われているのよ。」

 

ジェイムズ 「こんな時間からかい!?もう遅いしやめておいたほうが。」

 

キャサリン 「ありがとう。でも、友達を待たせているから。それじゃあね。」

 

ジェイムズ 「ちょっと!キャサリン!」

 

キャサリン 「えっ?」

 

ジェイムズ 「いやあ、プロオーケストラ演奏会のチケット、友達から渡されてさ。2枚あるから今度どうかなって?」

 

キャサリン 「あなたと?」

 

ジェイムズ 「・・うーん、まあ嫌でなければ。」

 

?     「おーい、キャサリン!」

 

      階段下の1階から男の声がきこえる。

 

キャサリン 「ごめん、今行くから!それじゃあジェイムズ、ごめんなさい。それじゃ。」

 

ジェイムズ 「ああ、気をつけて!」

 

キャサリン 「ありがとう!」

 

 

      8 電話

 

  テッド 「誘おうとしたけどすでに男がいた!?」

 

ジェイムズ 「うん。キャサリンは友達が待っているって言ってたけど、男の方はきっと彼女に気があるよ。」

 

  テッド 「ほんとか?」

 

ジェイムズ 「だってキャサリンはさあ、モテるだろ?・・僕なんかと違ってさ。」

 

  テッド 「卑屈になるなよ。仮にその男がキャサリンを好きだとしても、キャサリンがその男に気があるかもまだわからないだろ。」

 

ジェイムズ 「うん、まあ・・そうなんだけど。」

 

  テッド 「よし、俺が明日お前の家行ってそのキャサリンがどんな子か見てやるよ。」

 

ジェイムズ 「待ってくれ!これは僕1人でやりたいんだ!」

 

      テッド  「慌てなさんなって。俺はただその子を見ているだけだ。」

 

ジェイムズ 「・・本当に?」

 

     テッド   「ああ。安心しろ。」

 

ジェイムズ 「・・わかった。」

 

 

    9 翌朝 マンション

 

  マンションの1

 

 テッド「それで、そのキャサリンって子は?」

 

ジェイムズ「もうすぐ来ると思う。」

 

 テッド「まさか。わからないだろ。」

 

ジェイムズ「・・来る。」

 

           上の階から階段を降りる足音がきこえる。

 

 テッド「マジかよ!」と上を見上げる。

 

ジェイムズ「よし!」

 

             1階に降りてきたキャサリン

 

キャサリン「あら、ジェイムズ。ん?そちらの方は?」

 

ジェイムズ「ああ、彼はテッド。学生時代からの友人さ。」

 

 テッド「どうも、こんにちは。」

 

キャサリン「ええ、こんにちは。私は・・。」

 

   テッド「キャサリンだろ。5階に住んでいる。」

 

キャサリン「ええ。でも、どうして?」

 

ジェイムズ「今さっき君が階段からここに降りてくる途中で、「誰だ?」ときかれたから答えただけさ。大丈夫。」

 

キャサリン「そう。ならいいけど。それじゃあ。」

 

ジェイムズ「うん。」

 

テッド  「おう。」

 

ジェイムズ「それで、・・どう?」

 

テッド  「・・良いな。」

 

 

 

   

ヒューマンエラー2

   ヒューマンエラー2

 

               早朝の製鉄所

 

    雑巾を使い、たった1人で機械の手入れをしているエヴァン。

 

エヴァン こんなに汚れて。まったくあいつらには困ったもんだな。手入れをするようきちんと言わんとな。

 

    機械と楽しく会話をするように笑顔で機会に語りかけるエヴァン。

 

    そこに、足音がきこえてくる。

 

エヴァン !! 誰だ!?

 

セドリック 社長。

 

エヴァン お、お前か。な、なんだ?

 

セドリック この工場は社長の代で終わるんですか?

 

エヴァン  ・・知っていたのか。

 

セドリック 昨日ききまして。本当ですか?

 

エヴァン  ・・まあな。

 

セドリック 半年前の件でですか?

 

エヴァン  それもあるな。

 

セドリック 考え直していただけませんか?

 

エヴァン  すまんな。もう決まったことだ。

 

セドリック ・・そうですか。

 

   セドリック、立ち去ろうとする。わ

 

エヴァン  セドリック。

 

セドリック はい。

 

エヴァン  お前はうちに来て何年目だ?長くなるな。

 

セドリック 15年目です。

 

エヴァン  工場長になってからは?

 

セドリック 4年目です。

 

エヴァン  うちも商売だ。人員を増やすことで回転率をあげようとする気もわかる。

 

セドリック はい。

 

エヴァン  だがな。お前には自分が使う機械に思いやりがない。

 

セドリック えっ?

 

エヴァン  機械の異常に気づきにくいのも、お前が機械と距離を置いているからだ。

 

セドリック ? 意味がわかりません。

 

エヴァン  それがわからんうちはお前の企画には賛同できんよ。

 

      立ち去るエヴァン。社長。

 

セドリック ・・社長。